〇過敏性腸症候群(IBS)について
過敏性腸症候群は、検査で目に見える異常がないにも関わらず腹部の不快感を伴う便秘や下痢、もしくはその両方を繰り返すような症状が現れる病気です。
およそ10%程度の人がこの病気であるといわれている、よくある病気です。男性よりも女性の方が多く、年齢とともに減ってくることがわかっています。命に関わる病気ではありませんが、腹痛やお腹の張りなどを伴うことも多く、状態の悪い時にはトイレの心配を常にしなければならず、日常生活に支障をきたすような場合も少なくありません。
〇過敏性腸症候群の種類
過敏性腸症候群には、① 下痢型、② 便秘型、③ 混合型 の3タイプがあります。一般に認知されているのは、下痢型もしくは混合型です。下記のような症状がある場合は下痢型または混合型過敏性腸症候群が疑われます。
朝、出かける前に必ず下痢をするが、日中や夕方は症状がない
通勤中の電車で急にお腹が痛くなり、途中下車してトイレを探すことがある
平日仕事の日には下痢をするが、土日や休日は症状がない
大事な会議や商談などプレッシャーがかかるとお腹をくだす
起きている間は腹痛や下痢が頻回にあるが、眠ってしまうと腹痛で目が覚めることはない
便秘と下痢を不規則に繰り返す
〇過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群は様々な要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
自律神経やホルモンバランス
腸は「第2の脳」とも言われ、脳の働きと密接にかかわっており、ストレスや緊張、抑うつ、興奮などで自律神経やホルモンバランスが崩れると、腸の動きに異常が生じ、下痢や便秘を引き起こしやすくなります。
腸内環境
感染性胃腸炎の症状は一時的ですが、感染性腸炎後に7〜30%程度の確率で過敏性腸症候群を発症することがわかっています。はっきりとした原因はわかっていませんが、感染性腸炎後の腸内環境の変化により、腸粘膜の浮腫や知覚過敏があるとされています。
遺伝
双子のうち片方の子が過敏性腸症候群を発症した場合、もう片方の子にも過敏性腸症候群を発症する割合は二卵性よりも一卵性双生児で高いため、遺伝的な要因も関与していることが明らかになっています。また、母親の症状は子にも発症しやすい傾向にあると言われています。
〇過敏性腸症候群の診断
過敏性腸症候群の診断には「検査で目に見える異常がない」ことを確認することが重要です。過敏性腸症候群は悪い病気ではなく命に危険が及ぶことはありません。しかし、背景に大腸がんや炎症性腸疾患などの病気が隠れていている可能性はあります。他の病気と見分けるため、血液検査、超音波検査、大腸カメラ検査などの検査を症状に応じて行い診断します。
〇治療法について
症状が軽い場合、睡眠時間の確保やストレスの管理などの生活習慣に気を配るだけで症状が改善または消失することもあります。定期的な運動や3食を規則的にとり、暴飲暴食、夜間の大食やカフェイン・香辛料などの摂取を避け、食事バランスに注意する事も重要です。
特に腹部の張りが強い場合は、低FODMAP(フォドマップ)食への切り替えが有効な場合もあります。Fermentable(発酵性の)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類)、And(&)、Polyols(糖アルコール)の頭文字をとったもので、腸内発酵でガスを発生し、お腹の張りの原因になる可能性のある食品群を避ける方法です。低FODMAPの食品としては、バナナ、ブルーベリー、イチゴ、グレープフルーツ、人参、ナス、じゃがいも、かぼちゃ、米、グルテン抜きパン、豆腐などがあります。
生活習慣の改善をしても症状がよくならない場合は、お薬による治療を行います。一般的な薬から始めて、症状がひどい場合は、下痢や便秘の症状に合わせたIBSの薬を検討します。
また過敏性腸症候群はしばしば精神的な要因によって悪化するため、上記治療薬で改善が乏しい場合は心療内科でのカウンセリングや心理療法の併用が有効な場合もあり、この場合は適切な医療機関にご紹介いたします。
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